第17章 – 骨折


リノラが目を覚ました時、空気は静まり返っていた。雨戸から差し込む朝の光は、柔らかく、不確かで、まだその雰囲気が定まっていない。階下の家は静まり返っていた。召使いたちの笑い声も、鍛冶場の音も聞こえず、ただ彼女自身の、か細く、繊細な呼吸の規則的なリズムだけが響いていた。

その時、蹄が石にぶつかる音が聞こえた。そしてまた別の石にぶつかる音。ゆっくりと、そして慎重に。リノラは起き上がった。眠りからずっと付きまとっていた不安が、彼女の内にさらに深くこみ上げてきた。彼女は窓辺に歩み寄り、格子戸から中を覗いた。中庭では、グッドが若い子馬の傍らに立って手綱を握り、ナハラと話していた。子馬の毛皮は夜明けを背景に青白く輝き、その若さは古い石の間で場違いに見えた。

グッドが馬にまたがると、彼女はある悟りを悟った。突然ではなく、低く、そして恐ろしい、止まることのない石臼の回転のように。彼は去っていく。そして、彼が去ってしまえば、その後に起こることは取り返しのつかないことになる。その重圧が彼女の肺に重くのしかかった。まるで、この策略が彼女の思慮なく動き出す前に、声を上げ、彼を止め、何か行動を起こすべきだったかのように

彼女は部屋へと戻り、壁際に立てかけられたブロンズの皿へと視線を戻した。磨かれたその皿は彼女の姿を映し出すほど滑らかで、それでいてあらゆる輪郭を柔らかくしていた。彼女は皿の前に座り、髪を梳かし始めた。一撫でするたびに、思考の震えを鎮めようとしていた。見つめ返す顔は、彼女の顔でありながら、彼女のものではないようにも見えた。約束された、しかし不安で、服従と恐怖の狭間に閉じ込められた女。

外では、蹄の音が丘の方へ遠ざかっていった。そして、その代わりに屋敷が動き始めた。中庭の低い声、井戸からバケツが転がる音、遠くで畑へ向かう労働者たちの呼び声。下からは、陶器がカチャカチャと音を立てる微かな音と、鍛冶場で火が点くあのおなじみのパチパチという音が聞こえてくる。世界は、彼女がいてもいなくても、既に前進することを選んでいるようだった。

リノーラは再び心を落ち着かせ、筆遣い、筆遣い、そして均一なストロークに集中した。動くたびに鏡像が揺らめく ― まるで、その姿自体が完全な形を保つことを拒んでいるかのようだった。理性で思考を静めようとし、愛とは煽る火花ではなく、守り抜くべき決断だと囁いた。感情ではなく、信仰の選択だと。しかし、その言葉は空虚に響いた。聞いているのかどうかわからない虚空に向けられた祈りのように。表面的には穏やかに見えても、心の奥底では何かが絡み合っていた ― どんな筆でも拭い去ることのできない重苦しさが。

窓から、新たな作業音が聞こえてきた。金属が石にぶつかる音、低く規則正しい声。オーレンとシャミュエルは既に外に出ていて、動物小屋の作業について何か話していた。次の仕事のことだ。二人の声は職人のハンマーのように高低を繰り返していたが、その音色に何かが彼女の胃を締め付けた。皆、同じ目的を持っているのに、それでもなお、安らぎは感じられなかった。

彼女は窓辺に歩み寄った。外の空気は、高まる暑さにかすかに波打っていた。中庭では葉っぱ一枚も揺れず、鍛冶場の音さえも日中の重苦しさにかき消されているようだった。空気は、呼吸をまるで何かが壊れるのを待つかのように苦しく感じさせた。

ロシムはどこにも見当たらなかった。

その考えには、長い間追いかけてきた影を見逃したときのような、安堵と不安が混じっていた。

彼女は筆を置き、窓枠に手のひらを押し付けた。窓からは埃と鉄の匂い、仕事と秩序の匂いが漂ってきた。周囲のすべてが躍動感に満ちていたが、彼女は立ち止まり、二つの道の間で揺れ動いていた。一つは帰属を約束する道、もう一つは自由を囁く道。

リノラはその時、オーレンの声がかすかに聞こえた。遠くでかすかに聞こえたが、くぐもっていた。少し間があってから、シャミュエルの返事が返ってきた。落ち着いた、毅然とした口調だった。「取りに行く」彼の足取りは外壁へと消えていった。

その音は、まるで小さな召喚のように彼女を襲った。彼女はためらい、ドレスの裾をなで、サンダルを履いて石段を下りていった。外に出ると、シャミュエルが小さな石の山の脇にしゃがみ込んでいるのが見えた。彼は彼女に背を向け、片手で石の山をかき分けているようだった。まるで埋もれかけている貴重なものを探しているようだった。

「シャミュエル」と彼女は優しく呼んだ。

彼はすぐには振り返らなかった。「気をつけろよ。この岩の一部はまだ切れ味が残っている」と彼は言ったが、愛情よりもむしろ指導的な口調だった。彼は岩を一つ拾い上げ、光にかざして眉をひそめ、脇に置いた。「役に立たない」

「お役に立てるかと思って」リノラは一歩近づきながら申し出た。「少なくとも、お付き合いはできるわ」

「そうだな」と彼は優しく口を挟んだ。ほとんど親切心のように、しかしどこか鋭さも感じられた。「僕が聞きたいと思ってることを言う必要はないよ」

彼女の笑顔はかすれ、本当に困惑していた。「私は…」

すると彼は顔を上げた。表情は落ち着き、落ち着いていた。「僕が怒っていると思うと、君はいつも声を和らげる。優しい。でも、必要じゃない」彼は手についた土を払い、別の石に手を伸ばした。「もしまた兄のことを言いに来たとしても、やめてくれ。僕はもう許したんだ」

リノラはまるで会話の記憶が途切れてしまったように感じた。何か根拠となるものがあればと思い、尋ねた。「何を許すんですか?」

「面白いな。君は面白い。君が何をしようとしているのかは分かるが、同情は要らない」まるで石が彼の言葉を与えているかのように、彼の視線は石に釘付けになっていた。

彼女の思考は駆け巡った。彼はどれだけ知っているのだろう?ロシムは彼に話したのだろうか?もし私が何かを漏らしたらどうしよう?彼女は慎重に次の考えを選んだ。「同情?」

彼はゆっくりと立ち上がり、向きを変えた。地面の凸凹で、足を引きずる様子が一層際立った。「あなたは私を繊細なもののように扱う。まるで鋼鉄のように話しかける。自分がそうしていることにすら気づいていないのね。」

リノラは、安堵すべきか、それとも、そう、同情すべきか分からなかった。そんな考えは思い浮かばなかった。シャミュエルが求めているものになろうと必死だった。この作り物の優しさは、実は同情の一種なのだろうか?

あまりにも辛かった。立ち去ろうと一歩踏み出した途端――手が動かなくなった。シャミュエルは掴んだ――乱暴ではなかったが、自分のものだと信じて疑わない男の、揺るぎない決意の強さで。彼女の手首を掴む指には優しさが欠け、親指は脈のすぐ上を押していた。

一瞬、どちらも動かなかった。

「やめて」彼女は後ずさりしながら優しく言った。

彼は彼女を放した。その動きは小さく、しかし鋭く、彼の掴んでいた部分の彼女の肌は引き締まったままだった。

「ああ、今朝はちょっと緊張してるね」シャミュエルはくすくす笑いながら言った。

面白くなかった。冗談ですらなかった。むしろ、彼女が認識できない何かを隠そうとしているように感じられた。

リノラが中庭を横切ると、鍛冶場の響きは背後で消えていった。空気と距離が欲しかった。それでも、呼吸は以前より重く感じられた。彼の親指が押し付けられた手首は、まだうずき、消えることのない感触の痕跡だった。彼女はぼんやりとそれをこすりながら、ケアルームへと足を踏み入れた。馴染みのあるハーブと灰の香りが、彼女に何か確かな拠り所を与えてくれた。

開け放たれた窓辺でかすかに羽音を立てるハエの音と、補修が必要な洗面器からリズミカルに滴る水の音を除けば、辺りは静まり返っていた。畳まれたリネン類、香油の瓶、垂木から垂れ下がった乾燥した根菜など、すべてがきちんと所定の場所に整えられていた。すべて彼女の手によるものだった。本来なら慰めとなるはずだったのに、今日は秩序が彼女を嘲笑うようだった。

彼女は、すでにきれいになっていた器具を洗い、ハーブを混ぜ始めた。心を落ち着かせようとしない彼女の手を動かすために、何でもした。

彼は本当に同情の気持ちで言ったのだろうか尊敬すべき相手を同情するなんて、一体どういうことなのだろうか?

シャミュエルらしくない言い方だったが、でも、あんな風な彼を見たことはなかった。あの笑い声。あの握手。あの口調。どうして彼は何でも冗談にしてしまうのだろう?

もしかしたら彼女は彼を変えてしまったのかもしれない。もしかしたら、自分の手に負えないものを直そうと、無理をしすぎてしまったのかもしれない。

太陽は高く昇り、小さな窓から光が差し込み、部屋の影が歪んだ。リノラの脈拍はようやく落ち着き、セージの束を結んでいると、戸口から足音が聞こえた。

オーレンは片腕をフレームに添え、髭は日中の埃で銀色に輝いていた。「息子が自分の足跡を見つけたのはこの場所だったのか」と、静かな誇らしげに辺りを見回しながら言った。「君の才能には今でも驚かされるよ」

リノラは凍りつき、指の弦がきつく締まった。「息子と呼ばない

空気が動いた。オーレンは一度瞬きをし、眉をひそめた。「わからないことはわかる。お願いだから、心にあることを教えて」

彼女は彼の方を向き、腕を胸の前で組んだ。まるでそれで心が落ち着くかのように。「彼が正しい選択だって、どうしてわかるの?神様がそう告げたの?それとも、ただ…自分に合っていると思ったから、そう決めたの?」

オレンはゆっくりと息を吐き、慎重に一歩踏み出した。「君は困っているんだな」と彼は簡潔に言った。「それは明らかだ」

彼女は何も答えず、ただ光の中で塵の粒が回転するのを見ていた。

彼は近づいた。古い床が彼の体重で軋んだ。「長く生きてきて、愛は最初から確かなものではないってことは分かっている。選択を学ぶことで、感情はついてくる。シャミュエルはいい男だ。彼は…」

「いい男なら、強く抱きしめすぎないように注意する必要はないわ」と彼女は言った。目は瓶に釘付けだったが、声は震えていた。「いい男は、面白くない時は笑わないのよ」と彼女は泣きそうになりながら言った。

オレンは待った。二人の間に沈黙が深まった。「何かあったの?」

リノラは首を横に振った――あまりにも早く。「何も言うことはないわ。ただ…婚約を中止して。お願い」

彼は再び黙り、彼女は彼の優しい視線を感じた。まるで砕けた石を二つに分け、その重さを量るような。「君たちだけでなく、家族をも縛る約束を破れと言っているのか。私が証人の前で交わした約束を。誓いを軽んじているのか、リノラ?」

彼女の喉が締め付けられた。「この約束は鎖みたいに感じるの。」

それが彼を止めた。表情が和らぎ、威厳に満ちた態度が揺らぎ、より人間味あふれるものへと変わった。彼は一歩近づき、声を落とした。「心が引き裂かれる思いです」と彼は認めた。「あなたを愛していますが、同時に正しいこと、名を汚さないことをも愛しています。祈ります。性急に行動を起こす前に、主の答えを求めさせてください」

彼女はうなずいたが、そのうなずきは浅はかだった。半分は安堵、半分は敗北感だった。

オーレンがついに立ち去ろうとしたとき、ドアの枠に一瞬彼の影が映り、その後廊下の奥へと消えていった。

リノラはテーブル脇の低いベンチに腰を下ろし、震える手で静まり返ったセージの束を押さえた。オーレンにあんな風に話しかけたことは初めてだった。心の奥底から湧き上がる相反する感情を分かち合い、彼の知恵と名誉に疑問を投げかけた。何も変わらないのに、溺れかけていた彼女の一部は、新鮮な空気を吸い込んだ。

看護室は再び静まり返り、水漏れしている洗面器からゆっくりと水が滴る音だけが聞こえた。それは、これから待ち受ける待ち時間のように、着実に、辛抱強く聞こえた。

午後は、ぼんやりとした思考と落ち着かない手の中で、ぼんやりと過ぎていった。リノラはケアルームに残ったまま、同じ疑問をぐるぐると考え続け、やがてそれらが混ざり合ってぼやけてしまった。ドアがきしむ音を立てて開き、ティルザが腕を抱えて急いで入ってきた。手首から肘にかけて、真紅の線が光っていた。小麦を挽く時にうっかり滑らせたのだと彼女は説明した。

リノラは一言も発せずに作業に取り掛かった。傷口を洗い、湿布剤を混ぜ、しっかりと包帯を巻いた。指先は精確に動き、思考は遠くへ行った。ティルザは礼を言ったが、リノラはほとんど聞こえなかった。すでに父親との会話にすっかり気を取られていたのだ。まずは祈り、それから決めるのだ。

彼女が再び顔を上げる頃には、小窓から差し込む光は琥珀色に変わり、影は長く柔らかなものになっていた。台所からはパンを焼く香りが漂い、中庭からは夕食の時間が近づいているという声が聞こえてきた。彼女は荷物をまとめ、ベンチをまっすぐにし、外に出た。

庭の向こう側では、ロシムが井戸のそばに立っていて、まるで何かに手を煩わせているかのようにゆっくりと一定のリズムでバケツに水を汲んでいた。リノラは少しためらい、それから道を横切って彼の方へ歩み寄った。

「リノーラ、呪いについてずっと考えていたんだ。君はどう思う?」ロシムは話し始めた。

「彼はあなたを許したって言ったのよ」彼女は低い声で彼の言葉を遮った。

ロシムは立ち止まり、顔を上げた。「許してくれたのか?」

「あなたたち二人が何で喧嘩したのかしら」と彼女は言った。「何のことか、私には知らされていないわ」

彼は乾いた笑いを浮かべた。「じゃあ、告白した方がいいかな。どの罪を選べばいいか分かってるならね。この話はもう複雑すぎて、誰にとっても良いことにならない」

彼女は返事をしようと――彼が何を意味しているかを尋ねようと――口を開いたが、言葉がまとまる前に、背後で重い足音が響いた。

「見て!また二人を見つけたぞ、影の中に。秘密の話し合いだ」シャミュエルは笑い声を出したつもりだったが、咳き込むような声だった。

「あなたが思っているのとは違うわ」リノラは早口に言った。ロシムは振り返り、目を細めて彼女を見た。まるで「なぜそんなことを?」と問いかけるかのように。

シャミュエルは夕闇を切り裂いた。「それを受け入れる」と彼は言葉を一つ一つ慎重に言った。「もし君たち二人が、今すぐに、君たちの間に何も起こっていないと私に誓ってくれるなら」

沈黙は生きていた。リノラはロシムの方を向き、彼もリノラの方を向いた。彼女は声を上げるべきか、それとも彼に話させるべきか分からなかった。喉が詰まって空気が詰まった。ロシムは何も言わず、ただ兄の方を振り返った。バケツのロープが彼の手の中でゆっくりと回転していた。

シャミュエルは咆哮した。その声は生々しく、喉から出たものだった。彼は前に突進し、拳を曲げてロシムの顎に激しく突き刺した。その音は中庭の壁に反響した。

ロシムはよろめき、地面に血を吐き出し、そして体勢を立て直した。両腕を低く構え、まるでもう一撃を食らわせるかのように――それはシャミュエルの怒りをさらに掻き立てた。彼は再び攻撃を仕掛けた。今度はより激しく――拳はあらゆる場所に叩きつけられた。その衝動が悲しみからなのか、憎しみからなのか、判断しがたいものだった。

二人は低い石壁に激突し、上層から瓦礫を撒き散らした。その音に誰も気づかなかった――中庭が彼らの怒りを丸ごと飲み込んだ。二人の間の埃には、血が流れ、ロシムが吐き捨てた黒く湿った跡が残っていた。彼はシャムエルの手首を振りかざし、二人の間にしっかりと挟み込んだ。シャムエルは勢いよく身を引いたため、ロシムのかかとが緩んだ石に引っかかった。ロシムは激しく倒れ、周囲に埃が舞い上がった。

一瞬、シャミュエルが頭上に現れた。胸は激しく動き、顔には汗と怒りの跡が浮かんでいた。そしてロシムが兄の悪い足を蹴り、二人は手足が絡まりながら倒れた。

「やめて!」リノラは叫んだが、その声は混乱に飲み込まれた。

彼女は一歩前に進み出たが、凍りついて下を向いた。地面に着地した足は血に染まり、黒ずんでいた。その光景に彼女は虚ろになった。彼女の心の奥底で何かが崩れ落ちた。恐怖ではなく、声にも出せないほど深い絶望だった。

どちらの男も彼女の方を見る前に、彼女は振り返って走り去った。

後ろの中庭はぼやけ、夕食のことは忘れられ、聞こえるのは息が詰まる音だけ。世界が暗闇と遠景に狭まっていく。

リノラは屋敷の壁が消え、空気が喉を刺すように痛むまで走り続けた。どこへ向かっているのか分からなかった。ただ、引き返すことはできないということだけは分かっていた。静かな暑さの中、虫の羽音が周囲で大きく響き、そのリズムは彼女の高鳴る心臓の鼓動と共鳴していた。サンダルが乾いた草の端に引っかかり、茎が折れる音、埃、息、そして動きが響いた。

道が川の方へ曲がると、彼女は方向を変え、外の畑を迂回した。オリーブの木々の裏に続く斜面を​​、遠回りで辿った。今まで通ったことのない道だ。地面は凸凹していて静かで、あらゆる音が彼女だけのものだった。

彼女の足取りは方向ではなく距離を求めていた。まるで夜そのものが、彼女をすでに知っているどこかへ導いているかのようだった。

木造の街が、薄暗い空を背景に、前方にそびえ立っていた。その木材はかすかな光を捉え、その縁は記憶のように柔らかだった。リノラはスロープに近づくにつれ、肺が締め付けられ、背中の汗が冷えていくのを感じながら、速度を落とした。彼女は両手のひらを巨大な扉に押し当て、少しだけ無理やり開けた。蝶番が低い軋み音を立て、虚空に響き渡った。

中は空気が淀んでいたが、静まり返っていた。彼女はそっと中へ入り、背中をドアに押し付け、後ろ手に閉めて、ドアにもたれかかりながら耳を澄ませた。何も聞こえなかった。風も足音も聞こえなかった。耳に届くのは自分の脈拍だけだった。

呼吸が荒く、不規則になった。静寂は、まるで自分を裁くことのできない巨大な何かに飲み込まれるかのような、心地よささえ感じられた。まだ息が十分に整わないまま、彼女は心臓の鼓動が落ち着くまで待ち、記憶に導かれて暗闇の中を進んだ。

上の部屋への傾斜路が、彼女の足元できしむ音を立てた。木材からはかすかにピッチと年月の匂いが漂っていた。息を吸うたびに重く感じられたが、静寂が彼女を前に進めた。彼女は客間へと辿り着き、枠に沿って指が布地に触れた。ベッドだった。

彼女はその上に沈み込み、仰向けに寝た。胸が上下し、空気は豊かだが安定していた。手足の力が抜け、体がだるくなっても、彼女の心は動き続けていた。

沈黙は深まった。空虚ではなく、完全な沈黙だった。そしてその暗闇の中で、リノラの呼吸はついにゆっくりとしたものとなり、木の壁の静かなリズムに合わせられた。

彼女は祈る前に眠ってしまった。

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